「大学を作った津田梅子、中二病の元祖・島田清次郎、理想と引き換えに自殺した金子みすゞ」1929(昭和4)年 1930(昭和5)年【連載:死の百年史1921-2020】第9回(宝泉薫)
連載:死の百年史1921-2020 (作家・宝泉薫)
さて、彼の死の前月には、金子みすゞが帰らぬ人となった。こちらは島清とは対照的に、没後半世紀もたってから脚光を浴びた童謡詩人だ。山口県の生家が書店で、幼時から読書に親しみ、ハタチのときに雑誌投稿を始めて、第一人者の西條八十に激賞された。「イマジネーションの飛躍」「ふっくりとした温かい情味」とはその評の一部であり『大漁』『私と小鳥と鈴と』などの作品が知られている。
しかし、3年後に周囲の勧めで結婚した相手とは折り合いが悪く、創作と文通を禁じられてしまう。また、この男は遊郭通いが趣味で、性病を伝染されたりもした。結局、彼女がひとり娘を引き取ることを条件に離婚したものの、夫が心変わりをして連れ戻されそうになり、死の抗議を行なうのである。
「どうしてもというのなら、それはしかたないけれど、あなたがふうちゃんに与えられるのはお金であって、心の糧ではありません」
と、遺書に記し、娘と入浴して一緒に童謡を歌い、母や叔父を含めた家族4人で桜餅を食べたあと、カルモチンを飲んで自殺。26年の短い命と引き換えに、娘はみすゞの母が育てることになった。
その死をもたらしたのは、理解の欠如した結婚だが、そもそも、大漁の日に鰯の弔いを心配するような魂がこの世に向いているだろうか。彼女の「みんなちがって、みんないい」が儚い理想でしかないことを示す最期でもあった。
(宝泉薫 作家・芸能評論家)
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